
RNAiの科学
ノーベル賞にも輝いた生物学上の大きな成果「RNAi」
RNA interference (RNAi)は細胞内で遺伝子がどのように調節されているかを理解するための大きな進歩をもたらしました。 クレイグ ・メロー博士 (Craig C. Mello, PhD)とアンドリュー・ファイアー博士(Andrew Z. Fire, PhD)により発見されたRNAiは、科学的に重要かつ画期的な発見であることが認められ、2006年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。現在では、そのRNAi研究により新薬の発見・開発にも新たな可能性をもたらしています。サイエンスとして一つの現象であるRNAiを新しい医薬品開発に導くリーディングカンパニーとして、Alnylam(アルナイラム)は、RNAi治療薬に関する200報を超える査読論文を発表しています。RNAi研究における私たちの取り組み、そして治療薬としての可能性に対する確固たる信念は、米国、欧州、カナダならびに日本において、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーを適応とした世界で初めてのRNAi治療薬の承認という形に結実しました。そして、急性肝性ポルフィリン症を適応症とした2製品目のRNAi治療薬が米国で承認されました。
発見の瞬間
本当に革新的な研究では、多くの場合、閃く瞬間があります。これは、ある発見が、技術や治療薬に結びつくと確信する瞬間です。
Alnylam(アルナイラム)の設立も、このような瞬間が起源となっています。
Alnylam(アルナイラム)の共同設立者であるクレイグ ・メロー博士 (Craig C. Mello, PhD)とアンドリュー・
ファイ アー博士(Andrew Z. Fire, PhD)によるRNAiの解説を見る
RNAi治療薬の作用機序
RNA interference (RNAi)はもともと細胞に備わっている遺伝子発現抑制(サイレンシング)の自然なプロセスです。現在の生物学や新薬開発において、最も期待され、急速に発展している最先端領域の1つです。
RNAi治療薬は、生物にもともと備わっている自然なプロセスであるRNAiを利用した新しい治療薬です。Alnylam(アルナイラム)のRNAi治療薬を構成するsmall interfering RNA(siRNA)は、RNAiを仲介する分子であり、疾患の原因となるタンパク質をコードするメッセンジャーRNA(mRNA)を特異的に分解し、疾患を引き起こすタンパク質の産生を抑制することで、疾患発症を阻止します。
細胞の中でRNAi治療薬がどのように働くか見る
RNAiの働きをアニメーションでわかりやすく見る
RNAi治療薬の5つの特徴
RNAiは現在の生物学や新薬開発において、最も期待され、急速に発展している最先端領域の1つと考えられています。
1.生物にもともと備わっているプロセスを応用 RNAiはすべての哺乳類細胞にもともと備わっている遺伝子発現の調節にかかわるプロセスであり、small interfering RNA(siRNA)によっても仲介されることがわかっています。生物にもともと備わっているこのプロセスを応用することで、RNAi治療薬は標的とするmRNAに対して高い選択性を持つように設計することができます。
2.分解の機序 RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)は、RNAiによるmRNAサイレンシングを仲介するRNA-タンパク質複合体です。RISCを介した標的mRNAの分解には、siRNAの1本鎖のみが関与し、多くの標的mRNAを繰り返し分解することができます。
3.理論上、あらゆるタンパク質の標的化が可能 現在の医薬品の大部分を占める低分子医薬品や抗体医薬品とは対照的に、siRNAはあらゆる遺伝子のmRNAを標的として設計することができます。
これは、これまで治療標的にできなかったタンパク質に対しても、RNAi治療薬を開発できる可能性を示唆しています。さらに、遺伝物質(対立遺伝子)の片方に変異がある特定の疾患において、siRNAは疾患を引き起こす変異のみを標的とし、正常な対立遺伝子はそのまま機能します。私たちは、疾患の原因やその経路に関与するあらゆる遺伝子を治療標的として、RNAi治療薬を設計できると考えます。
4.疾患発症メカニズムの上流で作用 私たちAlnylam(アルナイラム)が開発しているRNAi治療薬は疾患の原因となるタンパク質の産生を阻止することが可能です。
RNAiを応用することで、疾患原因タンパク質の血中濃度に関係なく、一貫してその産生を抑制し、疾患をコントロールまたは治療できると考えています。例えるなら、蛇口から水があふれ出ている状況で“床にあふれた水を拭く”のではなく、“蛇口を閉める”のがRNAi治療薬のアプローチといえます。
5. 新薬候補発見の効率化 RNAiを応用することで、最適な医薬品候補の同定がより効率的になります。バイオインフォマティクスツールを使用して標的mRNAに相補的な配列を選び、RNAi治療薬候補を同定します。RNAi治療薬候補の選択過程では、siRNAの合成と検証を実施します。siRNAのリード配列はさまざまな動物種で機能するように設計されており、動物モデルにおけるデータをヒト疾患へ応用することが容易になる可能性があります。さらに、siRNAに特定の化学修飾を施すことで“医薬品的性質”を持たせ、血中における安定性を確保します。最終的に、RNAi治療薬のドラッグデリバリーシステム(DDS)を開発することで、肝臓など特定の臓器で発現する遺伝子において、一定のレベルでの遺伝子サイレンシングを実現します。
ヒト臨床試験における疾患原因タンパク質の抑制レベルは動物実験と高い相関が認められたことから、RNAi治療薬は前臨床研究から臨床研究へ移行できると私たちは考えています。これらの理由から、現在開発中のsiRNA治療薬は、モジュール化の概念を応用した再現性の高いアプローチにより、効率の良い新薬開発が実現できるものと考えています。